中国当局の検閲で削られた5分間を復活させたというシャドウプレイ「完全版」。いやー、なかなかハードボイルドでずっしり重厚感のある肌触りを感じる作品だった。ノワールものとでもいうのだろうか。ロウ・イエ監督はノーマークだった。中国映画界では巨匠レベルの大監督みたいだ。これから過去作チェックしてみよう。映画他芸術作品の面白さの醍醐味はやっぱり作品の背景、バックボーンを掘り下げていくことにある。今の時代、さまざまなジャンルのコンテンツが大量に溢れていて、少しでもアンテナに引っ掛かった作品をつぶさに観ていったら、時間がいくらあっても足りないと思うが。とにかく、その没頭していく時間はかけがえの無い知の森とでもいうか、尊い。
中国の広州地域、都市再開発系計画に反対運動を起こす住民達が暴動を起こす最中に、再開発事業の責任者タンが謎の転落死を遂げる。捜査に赴いた刑事ヤンは捜査をしていく過程で事件の重要な鍵を握る女性と恋に堕ちていく。近くでもう一つの事件、河原で女性の焼死体が見つかる。タンの妻リンと、元恋人で地上げや社長ジャン、そしてビジネスパートナーに当たるタンと歌手リエンの四角関係。複雑に絡み合う人間関係、富と愛憎の妙。広州・香港・台湾を舞台に共産主義国中国の縮図が露呈。その生々しさと人間ドラマに戦慄が走る。。。
捜査をしていく過程で中国社会の実態を暴いていく告発もの。途中ドキュメンタリータッチにもなっていて一連の犯人を暴いていく様はヒリヒリするようなソリッド感を映像に感じることができる。特にリンの娘ヤンの変貌ぶり、クライマックスでの復讐劇には脳内に快楽物質が発散されたような映画的カタルシスを堪能することができる。何度か打ち切り公開に辿り着くまで相当な辛苦が伴ったらしい。その徒労は映画全体の雰囲気や空気感にパッケージされていた。過去の河原での殺人シーンには、欲にまみれた人間達の悍ましさや汚さを感じた。中国の貧富の差問題は日本以上に切実だと思う。学歴のレールや成り上がりのステップを踏み外した人間達は、不条理に富める者たちの利得の対象と化し、働くところ・住むところ・食べるものを取り上げられ、時には死をも厭わなくなる。永遠の近代社会構造にメスを入れながらも、卓越した撮影技術と飽きさせないストーリーメイクで高レベルのエンターテイメントも供与してくれた。
キャスト陣もそれぞれのキャラクターがしっかりハマっていて良かった。タンの傍若無人さとリンの壮絶な人生背景は特筆に値する。まさにハードボイルドでノワールだったなー。とりあえず、ロウ・イエ監督の過去作が観たい!
シャドウプレイ